中小M&A事情

中小企業のM&A業界の事情、日常を紹介、解説するブログです

個人が会社を買い取ることが難しい2つの視点

昨日のブログ記事

500万円で果たして優良企業の社長になれるのか? - 中小M&A事情

に関連して、全くの第三者である個人の方が仲介会社等を通じて他の会社を買い取ることがなぜ難しいのかについて、経験を踏まえて考えをまとめてみたいと思います。

 

一般的に“事業承継”というのは

  1. 経営の承継
  2. 資産・負債の承継

という2つの側面があるとされています。

 

1.経営の承継

についていえば、中企庁「事業承継ガイドライン20問20答」によれば、経営者の親族や社内従業員であれば

・事業・商品・顧客のことを良く理解している

・一般的に、内外の関係者から心情的に受け入れられやすい

・後継者を早期に決定し、後継者教育等のための長期の準備期間を確保できる

ということが言えます。

 

これが全くの第三者である個人の方の場合、

・(全くの同業者でも無い限り)事業・商品・顧客についてイチから勉強する必要がある

・いきなりオーナー社長として会社に入ってきても、従業員や顧客から素直に歓迎されない

M&Aの場合、売手オーナーは早期の引退を前提としていることが多いので、引継ぎ期間が十分に用意できない

というハードルがあると言えるでしょう。

 

2.資産・負債の承継

会社の経営権を承継するということは基本的にはその株式(資産)を買い取るということですので、当然そのための資金が必要です。

優良企業であるほど内部留保の蓄積で株価は高くなり、より多くの資金が必要になります。

一方で、現代ビジネスのブログで挙げられているような株価500万円で買い取れる会社があったとしても、多くの負債を抱えていたり、恒常的な赤字経営企業であればそれはお買い得とは言えないでしょう。

また、会社経営に必要なお金というのは株式買取り資金ではなく、当面の運転資金も必要です。

いざというときにはオーナーが個人の資金を提供して資金繰りを行なうことも中小企業の常です。

新しい経営者に銀行が急に大きな資金を新規融資してくれるとは限りませんから、株式買取り資金以外にも余裕資金を用意しておかなければなりません。

 

負債の承継についても同様のことが言えます。

昨日のブログでも述べたように、現状ではまだ経営者の個人保証を求める銀行が多い中、銀行は経営者個人の資産背景・経営能力(実績)を見て経営者に保証能力があるかを審査します。

通常、中小企業の経営者も社歴が長いほど過去の蓄積でそれなりの個人資産を有している方が多い一方で、脱サラ・定年退職した個人の方にはそのような資産背景が無い方が一般的かと思われます。

となると、会社の売り手オーナーと買い手の個人が会社売買に合意していても、債務保証の承継について銀行の同意が得られないことも想定されます。

実際に、それが原因でM&Aが破談になった例も見聞きしています。

 

では、実際に個人で会社を買収しているのはどのようなケースでしょうか?

私が思うには大きく3つのパターンに分けられます。

・取引先の担当者など関係者によるM&A

⇒事業のことをよく理解しており、従業員・顧客等の利害関係者の理解も得られやすい

・過去に同業種を経営していた(資金力も有する)元社長によるM&A

⇒同じく事業/経営に関する知見・実績があり、資金力もある

・商店街の飲食店・小売店等の個人事業規模のM&A

⇒一般消費者向けの業態でありオーナーの個性を問わず、また特に技術力・ノウハウ等もそれほど高度なものは必要としない。必要資金もそれほどかからない。

 

逆に、中小企業のオーナー経営者に向いていない個人と思うのはどのようなケースでしょうか?

・サラリーマン時代のように、毎月の固定給、生活給を求める方

⇒極端にいえば中小企業は会社の利益=社長の報酬です。会社が赤字であれば社長は給料を取れません。それどころか、自腹を切って会社に資金を提供することもままあります。

・会社の買取りを不動産の利回り投資のように計算している方

⇒1,000万円を投資して、年利○%で運用してX年で回収して・・・というようなことを考えている個人の方がいらっしゃいますが、中小企業は毎年山あり谷ありで2~3年先のことを見通すのも至難の業です。

・あくまで自らは手を汚さないオーナーに徹したいと考えている方

⇒あくまでもの言わぬオーナーに徹し、事業運営は従業員に全て任せて自らは関与しないつもりの方がいらっしゃいます。中小企業はオーナーが経営・営業・商品開発・総務・人事・雑用全てを司るポジションであり、通常は事業にフルコミットメントを求められる立場なので、そのようなスタンスでは難しいでしょう。

 

このように、個人の方が他の会社を譲り受けるということは、それなりの条件を満たすことと、それなりの適性・スタンスを兼ね備える必要があると思います。