定年後に個人が会社を買うことをお勧めしない理由
しつこく何度も引用している現代ビジネスの記事ですが(笑)、記事中では中小企業を安く買取り、経営改善して高値で再売却する、というようなターンアラウンドマネジャーのようなことを「決して難しい仕事ではない」と主張されています。
なぜ私が「会社の購入」をお勧めするかといえば、読者のみなさんのなかには、中小企業経営に必要十分な知識と経験がある人が大勢いるからです。
ある程度の規模の企業で中間管理職を勤めた人であれば、自分がいた業界で、従業員が15人から30人ほどの会社であればマネジメントできるでしょう。事実、それぐらいの人数を部下として従えて、十数年間働いてきたのですから。
数十人の部下を抱える大手企業の管理職であったとして、それはあくまでサラリーマンとしての管理経験であり、それが中小企業経営に必要十分な知識と経験と呼べるかはギモンです。
むしろ、私の経験上では大企業出身者が中小企業に入り、その経験に基づいて大企業の感覚・意識を持ち込んでしまうと上手くいかないケースのほうがよく見かける気がします。
大企業の管理職は人を使うのが仕事かもしれませんが、中小企業の社長は営業も総務も開発も雑用もこなすプレイングマネジャーなのです。
これは定年後のM&Aに限った話ではないのですが、大企業を定年退職後、退職金を元手に事業を立ち上げた方は世の中には少なからずいらっしゃいます。
その中にはうまく成功して事業を拡大している会社もあれば、うまく立ち行かないまま低空飛行を続けている会社もあります。
共通して言えるのは、事業を続けていく時間に制限があり、かつそのための時間が短いということです。
通常、定年するのは60~65歳でしょうから、そこから会社経営を始めたとして元気に続けられるのはせいぜい10~15年間でしょう。
ゼロから立ち上げた会社であればようやく創業の努力が結実した頃にその実りを手放さなければならないかもしれませんし、他から買収した会社だとすると再売却ではまたオーナーが変わるということで、顧客や従業員に動揺を与えることにもなりかねません。
結婚と似ているかもしれません(!?)が、会社というのはスタートするのは簡単ですが、きれいに終わらせるのは大変です。
会社のオーナーがコロコロ変わるのはあまり良い傾向とは言えないと思いますし、会社の譲渡先が見つからず、借入金が残って会社を清算できないかもしれませんし、従業員がいればクビにしないといけないかもしれません。
大企業を定年退職した方が、自らの業務知識・経験を活かす方法として中小企業の経営に携わりたいのであれば、私がお勧めするとすれば「雇われ経営者」だと思います。
中小企業においては、社内に後継者候補(例えば息子さん)がいたとしても、まだ若すぎる、もう少し経験を積ませたい、経営教育をしてくれる人材が欲しい、それまで中期的(5~10年)に経営を任せたい、というニーズが実は潜在的にある会社も多いのです。
そういったケースにおいて、いわば「中継ぎピッチャー」のような立場で次の若い後継者候補が独り立ちするまでの期間をつなぐ雇われの「中継ぎ経営者」が求められるということです。
「雇われ経営者」というのは株式を持たないサラリーマン的な経営者であり、議決権を持たないためいつでもオーナーからクビになるリスクはありますが、一方で債務の個人保証も通常は負わない形が多いと思います。
中小企業の株式は非常に流動性が低い(=売りにくい)ので資産といいながら、実際には換金できない可能性も高いので、かならずしも株式を持つ必要はないと思います。
しかし、そういった求人を自ら探していくことは残念ながらハードルが高いと思っています。全く知らない第三者を人材紹介会社等を通じて採用するということはあまり無く、実際には取引先の大企業の担当者を引き抜いたり、定年後に採用しているケースが多いように思います。