中小M&A事情

中小企業のM&A業界の事情、日常を紹介、解説するブログです

中小企業M&A仲介業界がヨコのつながりが弱い理由

中小企業のM&A仲介業者は国内に数多く存在します。しかし、お互いあまり仲が良くない(=団結するメリットが無い?)のかヨコのつながりは他業界に比して薄いように思います。

  •  中小企業M&A業界において、業界団体は存在するのか?

私の知る範囲では、中小M&A業界団体として日本M&Aアドバイザー協会という団体があります。

 

www.jma-a.org

確かビジネス・ブローカレージ・ジャパン(仲介業者)代表の清水美帆さんという方らが立ち上げたと記憶していましたが、ビジネス・ブローカレージ・ジャパンのウェブサイトを見てみたら、現在は閉鎖されているようでした。

現在は、アルテパートナーズ、ビザインという仲介業者の方が理事でいらっしゃるようです。

 

主な活動内容としては、

中小企業経営者様に対しては、

M&Aセミナーのご提供・M&Aアドバイザーの検索エンジンのご提供

M&A案件データベースのご提供

を通じて、真に戦略的・友好的なM&Aへの理解、普及促進のご支援をいたします。

M&Aアドバイザーの皆様には、

M&Aアドバイザー養成講座のご提供・認定資格(CMA)の付与

 

など展開されているとのこと。

中小企業のM&A業界はまだまだ認知・普及が進んでいるとは言い難いですから、啓もう活動はどんどん進めていっていただきたいところです。 

 

 しかし、中小企業M&A業界の上場企業3社が加入していないようなので、アメリカ、ロシア、中国のいない国際連合のような感もあります。

 

なぜ中小企業M&A業界ではヨコのつながりが弱いのでしょうか?

私が思うには、業者の契約形態・手数料の体系に理由があるのではと考えています。

 

M&Aのアドバイザーの契約形態には、

・片側契約:売手側/買手側どちらか一方とだけ契約し、片側の利益のみを追求。もちろん手数料も片側からのみもらう

・仲介契約:売手側/買手側双方と同様の仲介契約を結び、両者から手数料をもらう

という2つのパターンが存在します。

 

新聞に載るような上場企業同士のM&Aの場合、一般的には片側契約でしょう。M&A業者も証券会社、メガバンク、独立系(GCAサヴィアンなど)などそれなりの組織かつそれなりの手数料(30百万円~)がかかります。

通常、M&Aは売手はなるべく高く、買手はなるべく安く取引したいという利害が相反する関係にあることは間違いないでしょうから、片側のみの立場に立つことで利益相反を防ぐ、ということです。

 

一方、中小企業のM&A業者の場合、片側ではなく仲介の形態で行っているところが多いです。

これは(私見ですが)

・大規模M&Aに比べて利益相反に対して求められるアカウンタビリティも少なく、交渉当事者も経済的合理性に必ずしもよらない、落としどころをつける“ウェット”な調整が必要。

・大規模M&Aに比べて手数料水準も低いため、両手取りにしないと業者が割に合わない

といったのが理由だと考えます。

 

仲介業者にとっては、いかに良い「売り案件」を入手できるかがポイントになります。せっかく入手できた「売り案件」をできれば仲介で売手/買手双方から手数料を取りたいと考えます。すると、他社と情報を共有するよりも情報を自社で独占したいという動機が働き、まずは自社でマッチングを完結させることを優先し、他社と案件を共有するのは自社でどうしても相手先を見つけられない場合だけ、ということになりがちです。

 

片側のアドバイザーであれば、そのような動機も働かないのでなるべく広範囲に探したほうがよく、同業者に色々と案件を持ちかけ、探索先を募ることも可能なのと対照的ですね。

 

また、これは仲介、片側どちらにも言えることですが、M&Aの業者との契約には「専任条項」という文言が入ることが一般的です。

 

これは不動産業界でいうところの「専任媒介契約」とほぼ同様の契約ですが、依頼者(売主)が他の業者に重複して依頼できない契約になります。

 

専任契約はM&Aの情報管理という観点から必要な内容でもありますが、案件情報は自社で抱え込む、ということで情報の流通性を低くしているひとつの原因ともいえます。

 

不動産業界では国土交通大臣指定の不動産流通機構が運営・管理している不動産流通標準情報システム(レインズ)というサイトがあります。

www.contract.reins.or.jp

 

中小企業M&A業界では、そのような一元的な情報管理のシステムが無く、案件情報は広く、浅く、水面下に分散しているような状況です。

 

そこで、以前の記事でもご紹介したように、国や民間企業でもそのような情報流通を促進する取組を始めており、今後の動向に期待したいところです。