自民党が中小企業者の事業承継支援策を提言!
5月16日付けで自由民主党の中小企業・小規模事業者政策調査会・事業承継小委員会から、『転換期における中小企業・小規模事業者の経営改革のための提言~ 経営者の「気づき」と横断的な「面的支援」に向けて~』と題して政策提言が発表されました。
ちなみにメンバーは以下のようなセンセイ方です。
中小企業・小規模事業者政策調査会
中小企業・小規模事業者政策調査会、新体制で再スタート|竹本直一オフィシャルブログ「たけちゃんブログ」Powered by Ameba
5月18日(昨日)には安倍総理にも提言をお渡ししてますね。党としても重要度が高い政策テーマということでしょう。
(出典)平成29年5月18日 自由民主党「中小企業・小規模事業者政策調査会」による提言手交 | 平成29年 | 総理の一日 | 総理大臣 | 首相官邸ホームページ
提言の内容について簡単にまとめてみます。
まず前文(要約)です。
・経営者の高齢化により後継者難を理由とする中小企業の廃業が数十万単位で発生する。この危機感を地域の支援者と経営者の間で共有し、「気づき」を促すことが重要。
・一方で事業承継は経営転換に取り組む「チャンス」であり、「ベンチャー型事業承継(家業で起業)」に挑戦する若い後継経営者を力強く支援することで、事業承継をイノベーションと地域活性化の「ゆりかご」としたい。
取り組むべき具体的施策を箇条書きで拾ってみます。
(1)経営者の「気づき」の提供
①経営者の気づきを促す事業承継支援プラットフォームの構築
⇒事業引継ぎ支援センターやよろず支援拠点、士業専門家のチーム支援
⇒5年間で25~30万社を対象にプッシュ型で情報提供(事業承継診断)
②事業承継支援人材の育成・活用
③サプライチェーンや業種単位の取組の後押し
(2)早期承継のインセンティブで継ぎたくなる環境を整備
①「ベンチャー型事業承継(家業で起業)」支援の抜本強化
②小規模事業者の後継者が強みを発見できる取組の支援
③経営改善や再生施策との連携
④株式承継の税負担の軽減策の強化に向けた検討
⑤従業員等に自社株式を段階的に移転しやすい環境の整備
(3)事業からの退出や事業の再編・統合をしやすい環境づくり
⇒事業引継ぎ支援センターを強化し、2017年度は1,000件、5年間で7,000件程度のM&A・後継者マッチングを実施。
⇒地域・業種ごとの共同化・再編を支援し、集約化を進めるための制度的枠組みの検討
具体的な取組としては、“⇒”で記述した部分
・25~30万社への情報提供(事業承継診断)で事業承継の着手を喚起
・事業引継ぎ支援センターでたくさんM&A、マッチングを実施
・地域/業種ごとの再編を促す枠組み作り
といった施策でしょうかね。
政権与党である自民党の政策提言は、国会を通して予算化され実現される可能性が高いので、今後に注目したいですね。
中小M&A仲介会社の平均年収は30代で1,200~2,200万円!
いきなり俗な話になりますが、中小企業のM&A仲介会社の平均年収はかなり高いです。
ビジネス誌では「上場企業平均年収ランキング」なんて記事が毎年よく出ているので人気企画なのだと思いますが、週刊東洋経済のH27/1時点の記事がありましたので、ランキングを見てみましょう。
国内の中小企業専門のM&A仲介会社は3社存在します。
上場時期からあげると、日本M&Aセンター、M&Aキャピタルパートナーズ、ストライクの3社になります。
先ほどのランキングを見てみると・・・
(東洋経済の上記記事より表を抜粋・一部加工)
1位 M&Aキャピタルパートナーズ 平均年収2,253万円!(平均年齢30.5歳)
5位 ストライク 平均年収1,616万円!(平均年齢34.9歳)
21位 日本M&Aセンター 平均年収1,237万円!(平均年齢34.7歳)
と見事に3社とも上位に食い込んでいますね。
ちなみに2位のGCA(いつの間にか社名から「サヴィアン」取れてたんですね。。)もM&Aの助言会社ですが、こちらは大企業・クロスボーダー(国際的)を主に取り扱う会社です。
そんなに給料を払えるなんて業績はどうなってるの?ということですが、それだけの人件費を払っても売上高経常利益率は40~50%と売上の約半分が利益として出ています。
(直近期、単位:百万円) | 売上 | 経常利益 | 経常利益率 |
日本M&Aセンター | 19,069 | 9,070 | 48% |
M&Aキャピタルパートナーズ | 3,755 | 1,860 | 50% |
ストライク | 2,006 | 790 | 39% |
<上場3社 財務ハイライト>
財務ハイライト|投資家情報|日本M&Aセンター:No1のM&A支援実績
業績ハイライト - M&A/事業承継のM&Aキャピタルパートナーズ【東証一部上場:6080】
中小企業のM&A仲介業者はどうしてこのような高給をもらえるのでしょう?
M&A仲介会社(専業)の収入は、当然ながらM&Aが成約したときの仲介手数料がほとんどを占めます。つまり、M&Aが成約した件数が多いほど売上が上がります。
上場しているM&A仲介会社はいずれもその期に成約したM&Aの件数を発表しています。
(単位:百万円) | 売上 | 成約組数 | 1組あたり売上 |
日本M&Aセンター | 19,069 | 262 | 72.8 |
M&Aキャピタルパートナーズ | 3,755 | 58 | 64.7 |
ストライク | 2,006 | 48 | 41.8 |
成約「組数」としているのは、仲介会社は売手・買手の双方からそれぞれ手数料を取る形態ですが、会社によって成約「件数」を売手・買手でそれぞれ別カウント(=M&A1案件成立につき2件とカウント)しているところがあるため、カウント基準をそろえてM&A1案件成立=1組としてカウントしています。
上記の表を見ればわかるとおり、M&A1組あたり40~70百万円もの手数料売上が入ります。
次に、従業員1人あたりの売上高を見てみましょう。
(単位:百万円) | 売上 | 従業員数 | 1名あたり売上 |
日本M&Aセンター | 19,069 | 270 | 70.6 |
M&Aキャピタルパートナーズ | 3,755 | 50 | 75.1 |
ストライク | 2,006 | 37 | 54.2 |
M&A仲介業は製造業や卸売業、小売業と違って仕入れ、原価というものがいりません。
必要経費は人件費、家賃、営業経費(広告費、交通費)、案件紹介料(紹介者へのキックバック)といったものです。つまり、売上がまるまる粗利益になりますので、高い人件費を払えますし、払っても利益が十分残るということです。
従業員1名あたり50~70百万円の売上があり、ほぼイコール粗利益なわけですから、売上の2~3割を給与として支払ってもかなりの利益になりますね。
また、最初の東洋経済のランキング表を見てお気づきになったと思いますが、平均年齢も30代と若くなっています。
・中小企業M&A業界はまだ新しい業界であり、勤続年数が比較的短い。
・離職率が高く、入れ替わりが激しい。
といった理由によるものだと思います
M&Aは実現すれば大きい売上になりますが、まとまらなければゼロというヒャクゼロの厳しい世界です。一度契約が取れれば毎年売上が立つようなストックビジネスではないので、毎年新たな案件を探し求めなければなりません。
そのような業態のため、基本給はそれほど高くなく、ボーナスの占める割合が非常に高いです。
ストライク社の例(PDF注意)でみると、
給与手当 173百万円
賞与手当 290百万円(H28/8期)
とボーナス部分が基本給の倍近くを占めています。
たくさん稼ごうと思えば、それだけ良い案件を見つけ出し、成約まで持っていかないといけないわけで、営業力がものをいう狩猟型民族でないと長く働くのは難しいかもしれません。
逆に言うと、営業の腕に自信がある!という方は絶賛営業マン募集中なのでトライしてみてはいかがでしょうか。
事業承継補助金の公募開始!
中小企業庁(経済産業省)から、5月8日付け「創業・事業承継補助金」の公募が発表されました。
公募対象者と公募期間は以下の通りです。
事業承継補助金について
以下の1.~3.を満たす者です。 1. 平成27年4月1日から、補助事業期間完了日(最長平成29年12月31日)までの間に事業承継(代表者の交代)を行った又は行うこと 2. 取引関係や雇用によって地域に貢献する中小企業であること 3. 経営革新や事業転換などの新たな取組を行うこと 公募期間
郵送:平成29年5月8日(月)~平成29年6月2日(金)【当日消印有効】
電子申請:平成29年5月下旬~平成29年6月3日(土)【17時締切】
5月8日リリースなのに、6月2日〆切とかなりタイトな締切になっています。
詳しい内容については特別サイトがありますのでこちらをご覧ください。
補助対象ならびに補助対象経費と補助率は以下の通りです。
- 補助率:2/3以内
- 補助金額の範囲:
①事業所の廃止・既存事業の廃止・集約を伴わない場合
100万円以上200万円以内
②事業所の廃止・既存事業の廃止・集約を伴う場合
100万円以上500万円以内※
※経営革新等に要する費用として上限200万円
事業所の廃止等に要する費用として上限300万円
応募申請書類や事業計画書のひな形はこちらにダウンロードページがあります。
ただし!申請のためには事業計画について「認定支援機関」の確認が必要とのことで、要注意です。
・本補助金の申請に際しては、応募者による経営革新等の内容や補助事業期間を通じた事業計画の実行支援について、認定支援機関の確認を受けている必要があります。
ちなみに「認定支援機関」とは何ぞや?ということですが、
もともと経産省では企業の経営革新(イノベーション)を支援するための「経営革新等支援機関」の認定制度というものがあり、その認定を受けた機関のことを指します。
近年、中小企業を巡る経営課題が多様化・複雑化する中、中小企業支援を行う支援事業の担い手の多様化・活性化を図るため、平成24年8月30日に「中小企業経営力強化支援法」が施行され、 中小企業に対して専門性の高い支援事業を行う経営革新等支援機関を認定する制度が創設されました。
認定制度は、税務、金融及び企業財務に関する専門的知識や支援に係る実務経験が一定レベル以上の個人、法人、中小企業支援機関等を、経営革新等支援機関として認定することにより、 中小企業に対して専門性の高い支援を行うための体制を整備するものです。
その支援・認定制度を事業承継補助金にも流用し、申請のための事業計画策定についてそれらの機関の確認を求めている訳です。
全国の認定支援機関の一覧はこちらです。
中小企業庁:経営革新等認定支援機関一覧(士業・中小企業支援機関等認定一覧)
- 上記のページでも確認できるように、既に第48号まで認定が進んでおり、東京都だけでも7,000以上の業者(士業、金融機関、コンサル等)が認定されるなど膨大な認定機関が存在します。
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ただでさえ、公募開始日(5月8日)から〆切まで1か月しかないのに、前提条件付きとなると実際には申請のハードルはかなり高そうですね。予算枠に対し、公募数はかなり限られるのではないでしょうか。
- 申請時点では承継していない状況でも、承継(代表者交代)時期は今年(2017年12月)いっぱいOKのようなので、もし利用を考えていらっしゃる場合は、早めに応募した方がよさそうですね。
中小企業M&A仲介業界がヨコのつながりが弱い理由
中小企業のM&A仲介業者は国内に数多く存在します。しかし、お互いあまり仲が良くない(=団結するメリットが無い?)のかヨコのつながりは他業界に比して薄いように思います。
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中小企業M&A業界において、業界団体は存在するのか?
私の知る範囲では、中小M&A業界団体として日本M&Aアドバイザー協会という団体があります。
確かビジネス・ブローカレージ・ジャパン(仲介業者)代表の清水美帆さんという方らが立ち上げたと記憶していましたが、ビジネス・ブローカレージ・ジャパンのウェブサイトを見てみたら、現在は閉鎖されているようでした。
現在は、アルテパートナーズ、ビザインという仲介業者の方が理事でいらっしゃるようです。
主な活動内容としては、
中小企業経営者様に対しては、
・M&Aセミナーのご提供・M&Aアドバイザーの検索エンジンのご提供
・M&A案件データベースのご提供
を通じて、真に戦略的・友好的なM&Aへの理解、普及促進のご支援をいたします。
M&Aアドバイザーの皆様には、
・M&Aアドバイザー養成講座のご提供・認定資格(CMA)の付与
など展開されているとのこと。
中小企業のM&A業界はまだまだ認知・普及が進んでいるとは言い難いですから、啓もう活動はどんどん進めていっていただきたいところです。
しかし、中小企業M&A業界の上場企業3社が加入していないようなので、アメリカ、ロシア、中国のいない国際連合のような感もあります。
なぜ中小企業M&A業界ではヨコのつながりが弱いのでしょうか?
私が思うには、業者の契約形態・手数料の体系に理由があるのではと考えています。
M&Aのアドバイザーの契約形態には、
・片側契約:売手側/買手側どちらか一方とだけ契約し、片側の利益のみを追求。もちろん手数料も片側からのみもらう
・仲介契約:売手側/買手側双方と同様の仲介契約を結び、両者から手数料をもらう
という2つのパターンが存在します。
新聞に載るような上場企業同士のM&Aの場合、一般的には片側契約でしょう。M&A業者も証券会社、メガバンク、独立系(GCAサヴィアンなど)などそれなりの組織かつそれなりの手数料(30百万円~)がかかります。
通常、M&Aは売手はなるべく高く、買手はなるべく安く取引したいという利害が相反する関係にあることは間違いないでしょうから、片側のみの立場に立つことで利益相反を防ぐ、ということです。
一方、中小企業のM&A業者の場合、片側ではなく仲介の形態で行っているところが多いです。
これは(私見ですが)
・大規模M&Aに比べて利益相反に対して求められるアカウンタビリティも少なく、交渉当事者も経済的合理性に必ずしもよらない、落としどころをつける“ウェット”な調整が必要。
・大規模M&Aに比べて手数料水準も低いため、両手取りにしないと業者が割に合わない
といったのが理由だと考えます。
仲介業者にとっては、いかに良い「売り案件」を入手できるかがポイントになります。せっかく入手できた「売り案件」をできれば仲介で売手/買手双方から手数料を取りたいと考えます。すると、他社と情報を共有するよりも情報を自社で独占したいという動機が働き、まずは自社でマッチングを完結させることを優先し、他社と案件を共有するのは自社でどうしても相手先を見つけられない場合だけ、ということになりがちです。
片側のアドバイザーであれば、そのような動機も働かないのでなるべく広範囲に探したほうがよく、同業者に色々と案件を持ちかけ、探索先を募ることも可能なのと対照的ですね。
また、これは仲介、片側どちらにも言えることですが、M&Aの業者との契約には「専任条項」という文言が入ることが一般的です。
これは不動産業界でいうところの「専任媒介契約」とほぼ同様の契約ですが、依頼者(売主)が他の業者に重複して依頼できない契約になります。
専任契約はM&Aの情報管理という観点から必要な内容でもありますが、案件情報は自社で抱え込む、ということで情報の流通性を低くしているひとつの原因ともいえます。
不動産業界では国土交通大臣指定の不動産流通機構が運営・管理している不動産流通標準情報システム(レインズ)というサイトがあります。
中小企業M&A業界では、そのような一元的な情報管理のシステムが無く、案件情報は広く、浅く、水面下に分散しているような状況です。
そこで、以前の記事でもご紹介したように、国や民間企業でもそのような情報流通を促進する取組を始めており、今後の動向に期待したいところです。
定年後に個人が会社を買うことをお勧めしない理由
しつこく何度も引用している現代ビジネスの記事ですが(笑)、記事中では中小企業を安く買取り、経営改善して高値で再売却する、というようなターンアラウンドマネジャーのようなことを「決して難しい仕事ではない」と主張されています。
なぜ私が「会社の購入」をお勧めするかといえば、読者のみなさんのなかには、中小企業経営に必要十分な知識と経験がある人が大勢いるからです。
ある程度の規模の企業で中間管理職を勤めた人であれば、自分がいた業界で、従業員が15人から30人ほどの会社であればマネジメントできるでしょう。事実、それぐらいの人数を部下として従えて、十数年間働いてきたのですから。
数十人の部下を抱える大手企業の管理職であったとして、それはあくまでサラリーマンとしての管理経験であり、それが中小企業経営に必要十分な知識と経験と呼べるかはギモンです。
むしろ、私の経験上では大企業出身者が中小企業に入り、その経験に基づいて大企業の感覚・意識を持ち込んでしまうと上手くいかないケースのほうがよく見かける気がします。
大企業の管理職は人を使うのが仕事かもしれませんが、中小企業の社長は営業も総務も開発も雑用もこなすプレイングマネジャーなのです。
これは定年後のM&Aに限った話ではないのですが、大企業を定年退職後、退職金を元手に事業を立ち上げた方は世の中には少なからずいらっしゃいます。
その中にはうまく成功して事業を拡大している会社もあれば、うまく立ち行かないまま低空飛行を続けている会社もあります。
共通して言えるのは、事業を続けていく時間に制限があり、かつそのための時間が短いということです。
通常、定年するのは60~65歳でしょうから、そこから会社経営を始めたとして元気に続けられるのはせいぜい10~15年間でしょう。
ゼロから立ち上げた会社であればようやく創業の努力が結実した頃にその実りを手放さなければならないかもしれませんし、他から買収した会社だとすると再売却ではまたオーナーが変わるということで、顧客や従業員に動揺を与えることにもなりかねません。
結婚と似ているかもしれません(!?)が、会社というのはスタートするのは簡単ですが、きれいに終わらせるのは大変です。
会社のオーナーがコロコロ変わるのはあまり良い傾向とは言えないと思いますし、会社の譲渡先が見つからず、借入金が残って会社を清算できないかもしれませんし、従業員がいればクビにしないといけないかもしれません。
大企業を定年退職した方が、自らの業務知識・経験を活かす方法として中小企業の経営に携わりたいのであれば、私がお勧めするとすれば「雇われ経営者」だと思います。
中小企業においては、社内に後継者候補(例えば息子さん)がいたとしても、まだ若すぎる、もう少し経験を積ませたい、経営教育をしてくれる人材が欲しい、それまで中期的(5~10年)に経営を任せたい、というニーズが実は潜在的にある会社も多いのです。
そういったケースにおいて、いわば「中継ぎピッチャー」のような立場で次の若い後継者候補が独り立ちするまでの期間をつなぐ雇われの「中継ぎ経営者」が求められるということです。
「雇われ経営者」というのは株式を持たないサラリーマン的な経営者であり、議決権を持たないためいつでもオーナーからクビになるリスクはありますが、一方で債務の個人保証も通常は負わない形が多いと思います。
中小企業の株式は非常に流動性が低い(=売りにくい)ので資産といいながら、実際には換金できない可能性も高いので、かならずしも株式を持つ必要はないと思います。
しかし、そういった求人を自ら探していくことは残念ながらハードルが高いと思っています。全く知らない第三者を人材紹介会社等を通じて採用するということはあまり無く、実際には取引先の大企業の担当者を引き抜いたり、定年後に採用しているケースが多いように思います。
個人向きの小規模M&A案件を探すには?
「個人によるM&A」ブログ記事シリーズ第三弾です。
前回の記事(個人が会社を買い取ることが難しい2つの視点 - 中小M&A事情)では個人の方のM&Aについてやや辛口な内容になってしまいましたが、今回は個人の方が小規模M&A案件を(なるべく安価に)どのように探したらよいか、私見を述べてみます。
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公的支援機関である事業引継ぎ支援センターに相談してみる
主に後継者不在の中小企業経営者のための公的な相談窓口として、全国都道府県に「事業引継ぎ支援センター」が設置されています。こちらは経済産業省が「産業競争力強化法(旧産業活力再生法)」を根拠法として、2011年からスタートしている事業です。
<全国のセンターを統括している全国本部(中小機構)のサイト>
こちらの記事でも簡単に触れたように、センターでは会社同士のM&Aだけでなく、「後継者人材バンク」という創業希望者(個人)と後継者難の小規模事業者のマッチングサービスを行なっているセンターもあります。「後継者人材バンク」事業を行なっているのは全てのセンターでは無く、一部のセンターという点に注意です。
例えば1都3県で現時点で後継者人材バンク事業を行なっているのは神奈川県のみであり、また2016年12月開設とまだ日が浅い状況です。
<「後継者人材バンク」を行なっているセンターの例>
神奈川県後継者バンク | KIP | 公益財団法人 神奈川産業振興センター
また、事業引継ぎ支援センターはもともと後継者難の事業承継の相談業務(方向性、選択肢の提供)が主たる業務であり、マッチング業務というのはあくまでサブ的な位置づけである点に留意が必要です。
小規模企業の案件が多いとはいえ、基本的には法人同士のマッチングが多いと思いますので、個人への紹介も可能かは事前に電話で確認した方が良いでしょう。
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民間企業による小規模案件のM&AマッチングサイトTRANBI
民間企業が運営しているM&A案件のマッチングサイトはいくつかありますが、実際にそれなりの情報量を有し、活気のあるサイトというのはそう多くないと思います。
私の観測範囲において最も情報量が多く、マッチングの数が多いサイトをご紹介します。
TRANBI[トランビ]というサイトです。ユーザー数が3,000名以上、累計M&A案件数500件以上、マッチング数(成約数ではなくコンタクトの数だそうです)1,000件以上と他の競合サイトを寄せ付けないボリュームの情報があります。
こちらはもともとアスク工業という長野県の工業資材の販売会社が運営母体でしたが、2016年4月に分社化し、現在はアストラッドという法人が運営会社になっています。
気になる手数料ですが、売手側は無料、どころか成約するとお祝い金までいただけるという懐の深さです。(笑)
買手側は成約額の3%ということです。
ご利用料金について|M&AマーケットTRANBI【トランビ】
M&A業界の手数料体系は一般的にはレーマン方式というフィーテーブルがあり、ここでは詳しくは触れませんがディール額ごとに5%~4%~3%といった階段型の成功報酬を設定する形が多いです。
ただし、小規模案件の場合に問題になるのが、ほとんどの仲介会社が上記のパーセンテージの他に、「最低成功報酬金額」を定めている点にあります。
その最低成功報酬金額が500万円~1,000万円という金額で設定されている業者が多く、小規模案件だと割に合わないことになってしまいます。
その点、上記のTRANBIは最低成功報酬金額が設定されていないため、小規模案件でも馴染みやすいと言えます。
なぜそのような報酬体系の設定ができるかというと、
・売手/買手が直接交渉を行なう=仲介者が介在しないのでその分の費用がかからない
・TRANBI運営母体は別の本業の稼ぎがあるので、収益化するまで時間をかけられる
ということが推察されます。
実際に交渉を進めるときに、必要であればプロのM&Aアドバイザー(有償)を紹介してもらうこともできるようです。
具体的に買手として検討する、ということでなくとも、いろんなM&A案件の情報を見ているだけでもおもしろいですね。
個人が会社を買い取ることが難しい2つの視点
昨日のブログ記事
500万円で果たして優良企業の社長になれるのか? - 中小M&A事情
に関連して、全くの第三者である個人の方が仲介会社等を通じて他の会社を買い取ることがなぜ難しいのかについて、経験を踏まえて考えをまとめてみたいと思います。
一般的に“事業承継”というのは
- 経営の承継
- 資産・負債の承継
という2つの側面があるとされています。
1.経営の承継
についていえば、中企庁「事業承継ガイドライン20問20答」によれば、経営者の親族や社内従業員であれば
・事業・商品・顧客のことを良く理解している
・一般的に、内外の関係者から心情的に受け入れられやすい
・後継者を早期に決定し、後継者教育等のための長期の準備期間を確保できる
ということが言えます。
これが全くの第三者である個人の方の場合、
・(全くの同業者でも無い限り)事業・商品・顧客についてイチから勉強する必要がある
・いきなりオーナー社長として会社に入ってきても、従業員や顧客から素直に歓迎されない
・M&Aの場合、売手オーナーは早期の引退を前提としていることが多いので、引継ぎ期間が十分に用意できない
というハードルがあると言えるでしょう。
2.資産・負債の承継
会社の経営権を承継するということは基本的にはその株式(資産)を買い取るということですので、当然そのための資金が必要です。
優良企業であるほど内部留保の蓄積で株価は高くなり、より多くの資金が必要になります。
一方で、現代ビジネスのブログで挙げられているような株価500万円で買い取れる会社があったとしても、多くの負債を抱えていたり、恒常的な赤字経営企業であればそれはお買い得とは言えないでしょう。
また、会社経営に必要なお金というのは株式買取り資金ではなく、当面の運転資金も必要です。
いざというときにはオーナーが個人の資金を提供して資金繰りを行なうことも中小企業の常です。
新しい経営者に銀行が急に大きな資金を新規融資してくれるとは限りませんから、株式買取り資金以外にも余裕資金を用意しておかなければなりません。
負債の承継についても同様のことが言えます。
昨日のブログでも述べたように、現状ではまだ経営者の個人保証を求める銀行が多い中、銀行は経営者個人の資産背景・経営能力(実績)を見て経営者に保証能力があるかを審査します。
通常、中小企業の経営者も社歴が長いほど過去の蓄積でそれなりの個人資産を有している方が多い一方で、脱サラ・定年退職した個人の方にはそのような資産背景が無い方が一般的かと思われます。
となると、会社の売り手オーナーと買い手の個人が会社売買に合意していても、債務保証の承継について銀行の同意が得られないことも想定されます。
実際に、それが原因でM&Aが破談になった例も見聞きしています。
では、実際に個人で会社を買収しているのはどのようなケースでしょうか?
私が思うには大きく3つのパターンに分けられます。
・取引先の担当者など関係者によるM&A
⇒事業のことをよく理解しており、従業員・顧客等の利害関係者の理解も得られやすい
・過去に同業種を経営していた(資金力も有する)元社長によるM&A
⇒同じく事業/経営に関する知見・実績があり、資金力もある
・商店街の飲食店・小売店等の個人事業規模のM&A
⇒一般消費者向けの業態でありオーナーの個性を問わず、また特に技術力・ノウハウ等もそれほど高度なものは必要としない。必要資金もそれほどかからない。
逆に、中小企業のオーナー経営者に向いていない個人と思うのはどのようなケースでしょうか?
・サラリーマン時代のように、毎月の固定給、生活給を求める方
⇒極端にいえば中小企業は会社の利益=社長の報酬です。会社が赤字であれば社長は給料を取れません。それどころか、自腹を切って会社に資金を提供することもままあります。
・会社の買取りを不動産の利回り投資のように計算している方
⇒1,000万円を投資して、年利○%で運用してX年で回収して・・・というようなことを考えている個人の方がいらっしゃいますが、中小企業は毎年山あり谷ありで2~3年先のことを見通すのも至難の業です。
・あくまで自らは手を汚さないオーナーに徹したいと考えている方
⇒あくまでもの言わぬオーナーに徹し、事業運営は従業員に全て任せて自らは関与しないつもりの方がいらっしゃいます。中小企業はオーナーが経営・営業・商品開発・総務・人事・雑用全てを司るポジションであり、通常は事業にフルコミットメントを求められる立場なので、そのようなスタンスでは難しいでしょう。
このように、個人の方が他の会社を譲り受けるということは、それなりの条件を満たすことと、それなりの適性・スタンスを兼ね備える必要があると思います。